子どもが話さないだけでなく、時に怒りをぶつけるようになるケースもあります。
「まさか、うちの子が……」
暴力というかたちで子どもが気持ちをぶつけてきたとき、多くの親御さんがそう感じるのではないでしょうか。
手を出されたショック、怒り、悲しみ、そして「どうしてこうなってしまったのか」という混乱。
子どもを愛しているからこそ、その行動に傷つき、どう向き合えばいいのか悩み苦しむこともあると思います。
思春期の暴力には、単なる「反抗」では片付けられない、心の葛藤や発達的な理由があります。
“わが子の中にある声にならないSOS”をどう受け止め、どのように寄り添えばいいのか──。
少しでも心の整理と安心につながる視点をお届けできればと思います。
なぜ思春期に暴力が起こるのか?
思春期の家庭内暴力は、「反抗期だから仕方ない」と片付けられがちですが、実は発達段階における心の揺れや葛藤、環境的なストレスが複雑に関係しています。
感情調整の未熟さ
思春期は感情が大きく揺れ動く時期です。特に怒りや不安などの強い感情をコントロールする脳(前頭前野)はまだ発達途上にあり、ストレスを感じたときに爆発的に表出しやすい傾向があります。
(👉スタインバーグ「思春期における認知的および情動的発達」 )。
自立と依存の葛藤
「自分で決めたい」「干渉されたくない」という自立心と、「まだ助けてほしい」「分かってほしい」という依存心が同時に存在するのもこの時期の特徴です。この内面の葛藤は強いストレスとなり、衝動的な言動や暴力的な行動につながることがあります。
(👉ブロス「思春期における第二の個性化プロセス」)
幼児期の手が出る行動との違い
幼児が叩いたりするのは、まだ言葉でうまく伝えられないための自己表現であることが多いのに対し、思春期の暴力は、感情の蓄積や人間関係のストレス、自尊心の傷つきなど、より複雑な背景があることが一般的です。また、その後に「やりすぎたかも」「申し訳ない」といった後悔や罪悪感を抱くケースも多く見られます。
暴力が起きたとき、できること
まず安全を確保する
物理的に距離をとり、身の安全を最優先に考えましょう。暴力を受けたあとは、まず自分自身の安全と心のケアを最優先にしましょう。
冷静に対応する
感情的になって言い返すと、状況が悪化することがあります。できるだけ落ち着いた態度を心がけましょう。
あとから気持ちを伝える
落ち着いてから、「あのとき、とても怖かった」「叩かれたことがとてもつらかった」と、自分の気持ちを相手を責めずに、事実として伝えることは、子どもに自分の行動を振り返らせるきっかけになります。
これは心理療法でも使われる「I(アイ)メッセージ(I-statement)」という方法で、相手を非難せずに自分の感情を伝える表現法として効果的だとされています。
「叩かれて悲しかった」「びっくりしたよ」など、自分の気持ちを穏やかに伝えることも大切です。
(👉T.ゴードン「Iメッセージについて」)
MIMAポイント!
「Iメッセージ」で話す大切さはお伝えしましたが、多くの思春期の子たちに接してきた私が、より効果的な方法、また確実に子どもとの絆が強くなる方法をお知らせします。それは…
・「あの時は”○○”て言ってしまって…、ホントにしまったな…て思ってる。」など、自分側の非を率直に認めること。大人から自己開示することです。
「私たちは、大人だからといっていつも正しいことを知っていて、正しい言葉がけをし、正しい行動ができているのでしょうか?」
きっと、どんなに必死に頑張っても…時に誤った対応をしてしまったり、ふと伝わりにくい対応をしてしまい、相手を不快にさせることもあるかと思うんです。そんな時は、あとからでも子どもに話しかけ、自分のしくじった対応を率直に認め、対等な人間として「さっきね、、、」と語り合いましょう。
子どもに素直さを求める前に、まずは私たち大人側が素直に気持ちを自己開示し、間違いがあた時には素直に認めていくこと。コチラに非があれば、子どもに「ごめんね」と、ちゃんと謝りましょう。
まずは…
①大人側が自己開示し、心を開くこと
その次に…
②「Iメッセージ」で子どもの行動を振り返ること
これができると、反抗的な態度や強い態度で出てきた子どもさんでも、フッと肩の力を抜き話を聞いてくれたり、子ども自身も自分の想いを語ってくれることもあるでしょう。
子どもは、いつも私たち大人のこと=大人の対応 を見て、学んでいるのだと実感しています。
※詳細はコチラ👉「絆を深める声掛け『Iメッセージ』の秘密」
第三者に相談する
ただし、家庭内での暴力が繰り返される場合や、恐怖感が残っているときには無理に本人と関わろうとせず、安全確保と第三者への相談を優先してください。児童相談所やスクールカウンセラー、精神保健福祉センターなどに早めに相談しましょう。
MIMAポイント!
相談というと、「家庭のことを話すのは…恥ずかしい」という感覚や、「自分で、どうにかできないか?」と責任を持ってるからこそ、そう考えたくなるのも分かります。ちょっと大きな病気やケガをしたとき、医師という専門家による適切な処置が無ければ悪化していくことが多いように、心の傷から起こる暴力も、抱え込んだり時間を置くことで反って悪化することも多いのです。風邪をひいたら遠慮なく病院に行くように、遠慮なく相談に行きましょう。「相談=自分のことを話す」ことに抵抗があり人が多いですが、海外の先進国ではセルフマネジメントとしての心理カウンセラーへの相談を日常的に行っている
大切な普段からの関わり方~予防につながる~
普段から親の意向で子どもを強くコントロールしない
子どもの本音:「いちいち口出ししないで!」
大人側は一歩離れて見守り、困ったときにはじめてアドバイスしていくなどで対応していくといいでしょう。大人からすると、考えも行動もまだ心配。つい口を出したくなる時も多いと思います。しかし、もう思春期。小学生のころとは違うことを意識して適度な距離で見守りましょう。
子どもの本音:「言われた通りやったのに!」
普段からの指示や命令は、小さい頃は素直に聞き入れ、子どもの困りも無いように思えます。
しかし、思春期ともなると状況が複雑化していきます。うまくいかない時には「言われた通りやったのに!」など、自分の考えから行動に結びついていない分、必要以上に他者に責任をぶつけることや、指示されて動いてきたので自分で解決法を見つけることが難しく、苛立ちをぶつけてくることも。その延長線上に暴力という表現につながることがあるのです。
感情を言葉で表す習慣を育てる
「イライラしてたんだね」「疲れてるのかもね」など、子どもの気持ちにそっと名前をつけてあげることで、自分の気持ちを少しずつ整えたり、自分を落ち着かせていく練習をすることができます。
大人も子どもも“言葉で伝える”練習をする
子どもの本音:「叱られるばかりで…結局どうしたらいいの!」
「イヤだと言ってもいい。けれど、手は出さないよ」など、家庭内のルールを丁寧に明確に伝えていきましょう。”こと”が起こる前、例えば「これから思春期になって、イライラすることもあるかと思うんだけど…」と事前に話し合いができると、より効果的です。
安心して話せる雰囲気をつくる
子どもの本音:「喧嘩したときだけ、私の話聞かないで!」
日ごろから自分の考えや想いを「話しても大丈夫」と思える空気を育てていきましょう。何か困ったときに、頼れる関係が築けるでしょう。
また、「きょう、おかあさんね~こんな失敗しちゃった…」など、素直に自分の話をしていくことで、子どももそうやって「困ったら話せばいいんだ」と見本になったり、「色々苦しいことがあるのは、自分だけじゃないんだ」という自然な気づきで、人として成長していく過程を学ぶことができるでしょう。
親自身の感情コントロールも大切
子どもの本音:「お母さんだって、すぐに怒るじゃない!」
大人の感情的な対応を子どもがみて、学び、同じように感情を爆発させることで、困りを訴えるようになります。
大人も感情が揺れることはあります。怒りたい時もあるでしょう。しかし、大人側こそ感情や出来事を整理して、どう伝えるかを考えてから子どもに伝える努力をしましょう。大人ができないことは、子どももうまくできません。少しずつ一緒に努力していきましょう。
子どもの価値観や考えを否定しない。子ども自身の想いに耳を傾ける
子どもの本音:「私の考えに文句付けるから、話したくない!」
子どもが話したことや考え方に、「それは違うと思う!」「それはダメでしょ!」とすぐに大人側の価値をぶつけて、子どもの意見や想いをつぶしていませんか?
「そっか、そうかんじたんだ」「○○はそう思うんだね」と一度子どもの想いそのままを受け入れましょう。丁寧に受け止めた上で、「う~ん、私なら、こう考えるかな?」と対等な位置から一つの意見として話すと子どもも違う価値観や考えを自分の思いと比較するなどし、考え方を広げていくことができます。
まとめ:暴力の裏にはSOSがある
思春期の暴力的な行動の背景には、言葉にしきれない不安や混乱、そして心の叫びが隠れています。
その行動だけを見るのではなく、「どんな気持ちがあったのか?」「どんなことに苦しんでいるのか?」「何か助けを求めているのか?」という視点で向き合うことが、信頼関係の再構築につながります。
人との関係は、壊れて終わるものではなく、いつでも育て直していけるものです。
大人にできることは、安心・尊重・冷静さ──その小さな積み重ねです。
どんなに話してくれなくても、どんなにぶつかってしまっても、「あなたを大切に思っているよ」という気持は、子どもを理解しようとする過程で必ずきっと伝わっていきます。
焦らず、見守り、寄り添うこと。
また、大人が自分を振り返り、素直に自己開示すること。その姿を見せていくことが、子どもにとって“安心できる居場所”や”安心できる存在”となり、今まで以上に絆を深めていくことができるでしょう。