親のその一言が、子どもの心をひらきます
子育てをしていると、つい感情的になってしまったり、子どもとのやりとりに行き詰まりを感じたりすることは、誰にでもありますよね。「もっと子どもと心を通わせたい」「もっと信頼し合える関係を築きたい」と思っていても、どうしたらいいのか分からなくなることもあるかもしれません。
そんなときに役立つのが、「自己開示」です。
「自己開示って聞いたことはあるけれど、実際どうすればいいの?」
「自分のことをどこまで話せばいいのか分からない…」
そう感じている方も多いと思います。
「自己開示」とは
「自己開示」とは
「自己に関する私的な情報(感情、経験、悩み、希望、価値観など)を、意図的かつ選択的に他者に伝えること」と心理学者ダーレガが定義しました。また、彼が提唱した「自己開示の相互性(reciprocity of self-disclosure)」という概念も注目されています。これは「相手が自分のことを話してくれたから、自分も話してみよう」というような、お互いの自己開示が人間関係における、安心感や信頼を育むきっかけになるという考え方です。この相互性は、親子関係だけでなく、すべての対人関係において、心を通わせるための大切な土台となります。
(Derlega & Grzelak, 1979)
「自己開示」の意義
・自己開示は、信頼関係を築く鍵であり、特に親子・恋人・友人などの親密な関係において非常に重要とされます。
・安全で受け入れられる関係の中でこそ、人は安心して自己開示できるようになります。
・また、自分の気持ちを言葉にすることで、自己理解やストレスの軽減にもつながります。
その後の研究によれば、母親の自己開示と養育態度が子どもの自己開示や学級集団への適応に影響を与えることが示されています 。また、親の理解尊重スキルが子どもの自己開示を促進することも報告されています 。
【詳しくはコチラ】
👉「母親の自己開示と養育態度が子どもの自己開示と学級集団への適応に及ぼす効果」小口孝司 J-STAGE
👉「思春期の子どもの親に対する自己開示に関する研究」渡邉 賢二 KAKEN)
効果的な自己開示の方法
親が自己開示を行う時には、以下の点に留意すると効果的です。
- 適切な内容とタイミング:子どもの年齢や状況に応じて、過去の失敗や感情を共有することで、子どもは共感しやすくなります。
- 感情の共有:単なる事実だけでなく、その時の感情や考えを伝えることで、子どもは親の人間性を感じ取りやすくなります。
- 聞き役に徹する:自己開示の後は、子どもの反応や話に耳を傾けることで、双方向のコミュニケーションが生まれます。
年齢別「自己開示」のコツ
🧒 学童期:"話すこと"を楽しめる土台を育てよう
特徴
この時期の子どもは、家庭や学校といった身近な人間関係の中で「人と関わる力」を少しずつ学んでいく段階です。まだ親への依存度が高い分、親の存在が心の支えとして大きく、「自分のことを受け止めてもらえる」経験が、安心感や自己肯定感へとつながっていきます。
効果的な関わり方
1.小さな共感の積み重ね
子どもが「今日こんなことがあったよ」と話してきたら、内容の大小にかかわらず「それは楽しかったね」「それは驚いたね」と気持ちに寄り添いましょう。こうした積み重ねが「話すことって心地いい」と思える土壌が育ちます。
2.短く身近な自己開示
「ママも子どものころ、音読が恥ずかしかったよ」など、等身大の経験を共有することで、大人の存在がより身近に感じられます。
3.目を見て、うなづいて聞く
話の内容よりも、「ちゃんと聞いてくれている」「気にかけてくれている」と感じ、自分に関心を持ってもらえている体験が、子どもの心を開きます。
🧑🎓 思春期:「見守られている」が自信になる
特徴
思春期に入るこの時期は、身体的・心理的に大きく変化し、「自分らしさ」や「他人からどう見られるか」を強く意識するようになります。親との距離が一時的に広がるように感じられるかもしれませんが、実は「理解してほしい」「受け止めていてほしい」という気持ちは、今まで以上に心の奥にあります。
効果的な関わり方
1.感情を添えた自己開示
「私も中学生のとき、友だちとすれ違って悩んだことがあるよ」など、出来事だけでなくその時の気持ちを含めて話すと、子どもの共感を引き出し、「わかってくれる人がいる」と感じやすくなります。
2.アドバイスを急がず、聞く姿勢を優先に
「そうだったんだね」「それはつらかったね」と、まずはアドバイスよりも気持ちを受け止めることで、子どもは心を開きやすくなります。
3.否定しない、決めつけない、会話が少なくても焦らない
口数が減るのは自立への一歩。親の穏やかな姿勢が、感情の波を受け止める“防波堤”となります。
👨🎓 青年期:「信頼されている」が心の支えに
特徴
青年期は、進路や人間関係、自分の将来に対する不安など、より深く内面的な葛藤に向き合う時期です。この頃の子どもは、親との関係に一定の距離をとろうとしながらも、心のどこかで「信じてもらいたい」「見守っていてほしい」と願っていることもあります。表面的にはそっけなく見える態度も、実は親の存在を必要としているサインかもしれません。
効果的な関わり方
1.信頼を言葉にして伝える
「あなたなら大丈夫」「きっと乗り越えられると思うよ」と、信じている気持ちを言葉にして伝えることで、一人の人として尊重し信頼する姿勢を示しましょう。
2.過去の苦悩や弱さを共有する
「高校生の頃、進路に迷って眠れないことがあったよ」と、かつての自分の迷いや悩みを正直に語ることで、子どもは「親も同じように悩んだんだ」と共感が生まれます。
3.話すきっかけをさりげなくつくる
「最近どう?」「疲れてない?」と軽く声をかけるだけでも、「見守られている」と感じ、心の支えになります。
まとめ:親の“言葉”と“姿勢”が、信頼の土台になる
どの年齢の子どもにも共通するのは、「親も完璧じゃない」「親も悩みながら生きている」と伝えることで、子どもが安心し、自分の気持ちも素直に表現できるようになるということです。
自己開示の方法や深さは、子どもの発達段階によって変える必要がありますが、「わかろうとする姿勢」「耳を傾けようとする態度」は、どの時期でも親子の信頼関係を育てる大切な土台です。
親のことばや態度が、子どもの心の中に静かに届いていきます。焦らず、その子のペースに合わせて、優しく寄り添っていきましょう。