小学校に入学して間もないころ、「宿題を忘れた」「体操服を持っていくのを忘れた」など、子どもの“忘れ物”に頭を悩ませる方は少なくありません。でも、それは本当に「不注意」や「だらしなさ」だけが原因なのでしょうか?
実は、子どもたちの“忘れ物”には、脳の発達や心の状態が深く関係しています。
なぜ忘れ物をしてしまうの? 〜発達の視点から〜
ワーキングメモリの未発達
小学校低学年の子どもは、まだ「ワーキングメモリ(作業記憶)」が発達の途中にあります。これは、情報を一時的に頭の中にとどめ、必要なときに取り出して使う力のことです。
📚 出典:ギャザコール、アロウェイ(2008)「Working Memory and Learning: A Practical Guide for Teachers.」
たとえば、「宿題をランドセルに入れる」「ハンカチをポケットに入れる」といった複数の手順を同時に処理することが難しく、抜け漏れが起きやすいのです。
自己調整力(セルフマネジメント)の未熟さ
低学年では、自分の行動を見直したり、次の行動を予測して準備する「自己調整力」もまだ育っていません。注意や感情をコントロールしながら行動するのは、大人が思うよりもずっと難しいことなのです。
心理的な背景:不安・緊張・関心の多さ
環境の変化や学校生活への緊張、または他のことに強い関心が向いている場合など、心理的な要因から注意がそれやすくなることもあります。「わざと」ではなく、”やるべきこと”より”自分のやりたい楽しいこと”へ気持ちが向いてしまうなど「気持ちが違う方向を向いている」ことが多いのです。
忘れ物をなくすアプローチ4選
視覚的なサポート「チェックリスト」をつくろう
チェックリストを一緒に作成し、ランドセル置き場に貼っておくなど、毎日見ながら準備する習慣をつけましょう。
忘れやすい物には目立つ色のラベルやイラストを活用するとより効果的です。
▶️ 育つ力:ワーキングメモリ・視覚認知力・段取り力
MIMAポイント!
・お子さん自身でチェックリストを書くことで、より自分のこととして意識できるようになります。
・文字がうまく書けない時は、隣にリストの絵を描いてあげましょう。絵を色塗りしてもらうことでも、ぐっと意識が高まります。
「準備の時間」をルーティン化しよう
- 宿題を済ませた後や、朝や寝る前の決まった時間に「明日の準備タイム」を設けましょう。
- はじめは、大人と一緒にゆっくり取り組むなど、子ども自身がコツをつかみ習慣化できるようにしましょう。
- できたらシールを貼るなど、達成感を得られる工夫もいいでしょう。
▶️ 育つ力:自己調整力・習慣化の基盤・見通し力
MIMAポイント!
・最初は、大人と一緒になって取り組むことで時間がかってしまったり、付き合うことがしんどいと感じることがあるかもしれません。でも、何度か一緒に取り組む中で、子ども自身がコツをつかみ、それが習慣化していけば、自ら「自分でできるよ!」というタイミングが必ず来ます。子どもにまかせっきりで、できないことを後から注意することは、反ってお互いのストレスにもなりかねません。一緒に取り組んだり付き合って行っていくことの方が、結局自立への道が早く開けることが多いのです。
「忘れても責めない」関わり方を知ろう
- 「また忘れたの?」ではなく、「どうしたら忘れずに済むかな?」と一緒に考える姿勢を大切にしよう。
- 忘れたことより、“どうリカバリーするか”を一緒に体験することが次の成長につながります。
- 忘れた自分に自信を無くす経験よりも、忘れないために工夫できる力を育ててあげましょう。
▶️ 育つ力:問題解決力・自己肯定感・信頼関係
● 遊びやゲーム感覚で定着させよう
- 習慣化できそうな段階で「今日は一人で全部そろえられるかな?ゲーム」など、遊びを取り入れながら自分でやりたくなる気持ちに持っていきましょう。
- 家族で「○○を持ったかクイズ」など、確認しながらも楽しめる工夫をしましょう。
▶️ 育つ力:注意力・意欲・楽しく学ぶ力
🧩 忘れ物を「直す」から、「育てる」視点を
忘れ物が多いのは、単に「性格」や「だらしなさ」ではなく、まだ発達の途中だからこそ見られる、ごく自然な姿です。
大切なのは叱ることではなく、子ども自身が「気づく力」や「工夫する力」を少しずつ育んでいけるように支えていくことです。
こうした日々の積み重ねが、いずれは「忘れ物をしないための工夫ができる子ども」や、「自分の行動をふり返り、調整する力をもった子ども」へと成長していく土台となります。
焦らず、あたたかく見守りながら、繰り返し寄り添っていきましょう。小さな一歩の積み重ねが、子どもたちの確かな力になっていくことでしょう。