思春期は、子どもが自立に向けて大きく成長していく、大切な時期。
しかし、親にとっては
「なんでそんなに反発するの?」
「急に冷たくなってショック…」と
戸惑いや悩みがつきない時期でもあります。
思春期(反抗期)とは「成長の確認作業」
・思春期は、身体だけでなく認知・情緒・社会性のあらゆる領域が一気に発達する“人生最大級の成長期”です。
・実体験を通じて、自分の存在や価値観を確認し「自分らしさ」を模索します。
・思春期の子どもは、「親や社会から受け身で育てられる存在」ではなく、自分自身の人生に自ら関わり、自分なりに考え、選び、成長しようとする時期です(※1)。
神経科学では、感情を司る扁桃体と理性的判断を担う前頭前野との発達のギャップにより、子どもは“感情と理性の間”で揺れ動きながら、自分らしさを模索するとされています(※2)。
心理学者のエリクソンも、「アイデンティティの確立」が思春期の最大課題と提唱しました(※3)。
つまり、反抗や迷いの多いこの時期は、「成長の確認作業」でもあるのです。
思春期の子どもに接する前に、親として心に留めておきたいこと
思春期は、体の発達や変化、心の成長スピードも加速するなど、幼少期から一番大きな変化が起こる時期です。感情の起伏も激しくなりますが、まだ感情の自己調整が効かない時期でもあります(※4)。
それでも、子どもの心の奥には、
「まだ親に見守って欲しい」
「自分の意思を尊重してほしい」
という思いがあるのです。
MIMAポイント!
赤ちゃん~思春期になるまで、子育てお疲れさまでした!
沢山の時間を、一生懸命子どもによりそってくれたおかげで、ここまで大きくなりましたね。
子どもに接する中で、うまくいかない時に、つい今までの反省をしてしまう人もいるかもしれません。
でも、一番やってほしいことは、大変な思春期を「子どもと一緒に成長できるチャンス」ととらえ、前向きに「今できること」を考えて欲しいのです。自分の対応の癖を見つめれば、必ず強みに変えられます。
子どもが大人の手を離れていくのは、実はあっという間です。反抗も感情の起伏も、見方を変えれば「子どもの心の叫び」です。そんな思春期の子どもを支えるための方法を一緒に考えていきましょう。
親が「絶対やってはいけないこと」3選
1️⃣ 感情的に怒鳴る・否定する
NGの理由:子どもの「自己肯定感」が大きく傷つくから。
心理的影響
・親への信頼感が揺らぐ
・自分の素直な気持ちを表現しにくくなる
・攻撃的・抑圧的な性格形成のリスクが高まる
感情的に怒鳴る親の姿を見て、子どもも同じような反応で返すことを学んでしまいます。
🔍【発達心理の視点】
思春期は、自分自身の考えや価値観を模索する大切な時期
「意見を言う」「反抗する」ことは「自立のサイン」でもあります。
しかし、そこで親が「いい加減にしなさい!」「口答えしない!」など感情的に否定すると、子どもは「自分の感情や意見は、どうせ否定されるものだ」と感じ、親との対話を避けるようになります。
こうして、悪循環が生まれ親子関係が崩れることもあるのです。
2️⃣「親の言うことが絶対」と押しつける
NGの理由:子どもの「自立心」を否定することになるから。
思春期の子どもは、「自分で考えたい」「自分で決めたい」という気持ちが非常に強くなります。
にもかかわらず、「あなたのために言ってるのに」「親の言うことを聞いていなさい」といった”正しさ”を一方的に押しつけられると、子どもは「対等に扱ってもらえない」「一人の人間として尊重されていない」と感じ、子どもとの距離を深めてしまいます。
心理的影響
・自己決定感が下がる
・自己肯定感が下がり、意欲がそがれる
・表面的には従っていても、内心では不信感を募らせる
このような対応が、あるタイミングをきっかけに子どもの思いがけない感情の爆発を招く恐れがあります。
中には、親の前でだけ“いい子”を演じ、外では全く違う表情を見せたり、いじめなどをすることで気持ちを発散させる姿がみられる場合もあります。
🔍【発達心理の視点】
自立心が大切な理由
自立心は、自分の人生を主体的に選び取るための基盤です。
自立心を支える方法(※5)
・子ども自身に「選ばせる」
・子どもに「任せる」
・子どもの「間違いや失敗を許容する」
⇨これらの経験から子どもが自ら成長していくことを支える。
このような姿勢が大人に求められます。
ここでいう「間違いや失敗」とは、非行などの非社会的行為を指すのではなく、子どもの決定において「良しと判断されたもの」や「子ども自身で決定したこと」が結果として「間違いであったと気づく」ことを指しています。
3️⃣ 無視する・放任する
NGの理由:「どうせ自分のことなんか見てくれていないんだ…」という無力感や孤独感につながるから。
親が関わることをあきらめたり、怒りから無視してしまうと、子どもは「親はもう自分に興味がない」「心配してくれない」「ひとりぼっちだ」と感じることがあります。
放任や無視は、大人にとっては「適切な距離をとっている」つもりでも、子どもにとっては自分との関係を「拒絶している」と感じ、「自分は大切にされていないのではないか?」「自分の存在は必要ないのでは?」と考え、心を閉ざしてしまったり、寂しさや反発心から非行にもつながる場合があります。
心理的影響
・孤独感が強まり、メンタル不調や精神的反発を招きやすい。
・家庭内で安心できる場所を感じられなくなる。
・絶望感や自分が無価値に感じてしまうリスクがある。
🔍【発達心理の視点】
親にもとめているのは、実は「見守ってほしい」という欲求です(※6)。
表面的にはそっけなくても、親の存在や声かけに敏感に反応しています。
タイプ別反抗の理解と正しいアプローチ法
タイプ | 親がやりがちなNG対応 | 正しいアプローチ |
---|---|---|
回避型(返事しない) | 質問責め・無理に話しかける | ペースに合わせ静かに寄り添う。安心できる存在として「そばにいる」ことを意識する。 |
闘争型(激しく反発) | 短期決戦で言い負かす・制圧的指導 | 一歩引いて冷静に見守り、気持ちが落ち着いたタイミングで対話を試みる。 |
稀薄型(淡々と静か) | 放任・関心をなくす | 小さな褒めや関心を表現し、「気にかけている」サインを積み重ねる。 |
子どもの行動の裏側には、不安や葛藤、そして”自分らしく成長したい”という欲求が隠れています。
NG対応に気づき、正しいアプローチを少しずつ実践することで、子どもの心は必ず応えてくれるはずです。
以下、それぞれのタイプ別に詳しく解説します。
🔵 回避型(返事しない)
話しかけても無反応で返事のない「回避型」
思春期の子どもに多いのがこの「回避型」です。親の問いかけを無視しているように見えても、実は感情の整理が追いつかず、どう答えていいか分からないことが多いのです。「何で返事しないの!?」と問い詰めたり、返事がないことにイライラして怒鳴ったりすると、子どもはますます心を閉ざしてしまいます。また、無理に話を引き出そうとすることも逆効果です。
✅ 回避型(返事をしない)タイプへの【正しいアプローチ法】
・話すことよりも、「安心してそばにいられること」を大切にしましょう。
たとえば、一緒にテレビを見る、同じ空間で静かに過ごすといった“無言の安心”も、子どもの心にとっては安心の土台になります。
・「いつでも話していいよ」と伝えつつ、返事を強要しない雰囲気をつくりましょう。
・日常の中で少しずつ信頼を積み重ね、心が開けるタイミングを待ちましょう。
🔴 闘争型(激しく反発)
言い返したり、怒りをぶつけてくる激しい犯行の「闘争型」
これらは思春期の象徴とも言える反応です。「自分の気持ちをわかってほしい」「親を乗り越えたい」という成長欲求の表れでもあります。「親にそんな口きくな!」と怒鳴る、言い負かそうとして論破合戦になる、あるいは威圧的に黙らせようとする——。これらの対応は一時的に黙らせる効果はありますが、子どもとの関係は確実に悪化します。
✅ 闘争型(激しく反発)タイプへの【正しいアプローチ法】
・感情的にぶつかるのではなく、一歩引いてクールダウンを。
「今はお互い冷静になる時間が必要だね」といった言葉でクールダウンの姿勢を見せましょう。
・存在そのものを肯定する関わり方を心がけましょう。
子どもの気持ちが落ち着いたタイミングで、「どうしたの?」「どうしたかったのかな?」と、思いをくみ取る声をかけましょう。「心配だったんだよ」と素直な気持ちも伝えると、関係の回復に役立ちます。
(関連記事👉【ペアレント】絆を深める声掛け「I(アイ)メッセージ」~子どもの心に届く伝え方~)
・反発は、信頼関係があるからこそ起きることと知りましょう。
・攻撃の裏にある“理解してほしい”という気持ちをくみ取りましょう。
⚪ 稀薄型(淡々と静か)
反応が薄く、会話も少ない「稀薄型」
一見おとなしく手がかからないように見えますが、実は心の内に孤独感や失望、自分への自信ななさを抱えていることがあります。感情を出すことに疲れてしまっている状態とも言えるでしょう。大人側が「何を考えてるのかわからない」と距離を取ったり、「好きにすれば」と突き放すような言葉がけは、子どもに「自分はどうでもいい存在なんだ」と誤解させてしまう恐れがあります。また、子どもの雰囲気に任せきりで会話がほぼゼロという状況も望ましくありません。
✅ 稀薄型(淡々と静か)への【正しいアプローチ法】
・毎日の小さな声かけの積み重ねをしましょう。
「おはよう」「おかえり」「おやすみ」など、特別な話題でなくても、日常の中で「気にかけているよ」というサインを出し続けましょう。また、「その服、似合ってるね」「テレビ面白かったね」などの軽い会話でも、子どもはしっかり感じ取っています。
・笑顔やうなずき、目を見て話すなど、言葉以外のコミュニケーションも意識的に取り入れましょう。感情が乏しく見えても、それは“感情がない”のではなく、“出しにくくなっている”だけ。焦らず、じっくりと関わっていきましょう。
・家庭が「いつも通り安心できる場所」だと感じられるようにしましょう。
心が繊細であったり、相手に気をつかい過ぎて自分の気持ちが表現しづらくなる子どももいます。学校で気を張り、しんどく感じているなど、子どもが抱えている状況は様々です。せめて家庭では、敏感になりすぎず、いつも通りのコミュニケーションを心がけましょう。
子どもの言葉や行動にカッときた時は「大人の冷却時間(心理的準備)」を持とう
- 感情が高ぶったら2時間位のクールダウンタイムをとりましょう。
子どもに感情的に反応しても、正しく気持ちは伝わりません。感情が沈静化するまで、その場から離れるなど、反応を控えましょう。離れることは負けではありません。冷静に「今は伝わらないから、離れるね」と、子どもに行動の真意を伝えることも大切です。 - 親自身が「自分を整える時間」を持ちましょう。
冷静になってこそ、見えてくることがあります。「何か苦しかったから親に気持ちを吐き出したのかな?」「決めつけられたと感じたのかな?」など、子どもの行動の背景にある「心に目を向ける」と、また違った声掛けが生まれてくるでしょう。
おわりに「あなたの関わりは、子どもの心にしっかり残っています」
私たちが思春期の子どもに向き合う時、戸惑ったり、時に怒りを呼び起こされることもあります。
けれど忘れてはいけないのは、子どもの言葉や行動の奥には、「もっとわかってほしい」「自分を認めてほしい」という心の叫びがあることです。
たとえ会話が減っても、
笑顔を返してくれなくても、
あなたが向き合おうとする姿勢は、ちゃんと子どもの心に積み重なって届いていきます。
大人へと向かう途中にある「思春期」。
この揺らぎの多い時間を、そばで見守れるのは、とても貴重なことです。
不安や迷いを抱えながらも、子どもたちは一生懸命に成長しようとしています。
焦らず、無理せず、一緒にできることを探していきましょう。
その姿は、きっと成長していく子どもの心に、深く刻まれていくことでしょう。
※1 米国国立アカデミーズ(2019)
「思春期の約束/すべての若者に機会を」Chapter 5「Adolescent Development」
(National Academies Press)※2 ディラン・G・ジー ほか(2013)
「母体剥奪後のヒト扁桃体-前頭前野の連結性の早期発達的出現」
(Proceedings of the National Academy of Sciences)※3 エリク・H・エリクソン(Erik H. Erikson(1968))著/中島 由恵 訳(2017年11月)
翻訳版「アイデンティティ――青年と危機」(新曜社)※4 ブレイクモア, S.-J. & ミルズ, K.L.(2014)
「思春期は社会文化的処理にとって敏感な時期でしょうか?」
(Nature Reviews Neuroscience)
※5 デシ, E.L. & ライアン, R.M.(2000)
「自己決定理論: 動機、発達、健康における基本的な心理的ニーズ」
(American Psychologist)※6 水本 深喜(2018)
「青年期後期の子の親との関係:―精神的自立と親密性からみた父息子・父娘・母息子・母娘間差―」
(一般社団法人 日本教育心理学会)J-STAGE