「最近、子どもが話してくれない…」
「質問しても返事がなくて、会話が成り立たない…」
そんな変化に、戸惑いや不安を感じることも多いのではないでしょうか。
特に思春期に入ると、それまで素直に話してくれていた子が急に口数が減り、何を考えているのかわからなくなることがあります。
「私の関わり方が間違っていたのかな?」「このまま親子関係が壊れてしまうのでは…」と、自分を責めたくなることもあるかもしれません。
けれど、安心してください。
子どもが親と距離を取ろうとするのは、発達的にとても自然なことです。
それは、自立へ向かう第一歩であり、親子関係が崩れた証ではありません。
なぜ話さなくなるの?思春期の心理と発達
1.アイデンティティの確立(エリクソンの発達理論)
心理学者のエリクソンは、子どもの心の発達を一生を通じた視点から捉えたことで有名で、発達心理学の基礎を築いた人物です。
その中で、思春期を「アイデンティティ(自分らしさ)を育てる時期」と言いました。
それはまるで、安心できる土台(親や信頼できる人)の上に、自分だけの「心の部屋」を少しずつ広げていくような作業。
この「心の部屋」は、自分の気持ちや考えを整理し、
自分らしさを見つけるための大切なスペースなのです。
今までは親の中に住んでいた心が、少しずつ“自分だけの場所”をつくろうとしているのです。
「心の部屋」で子どもは、「自分ってどんな人なんだろう?」「まわりとどう違うのかな?」「どんな自分でいようか」と、自分自身のことを少しずつ考えるようになります。
親や家庭だけでなく、友だちや社会など身の回りの世界に目を向け、時には迷い悩みながらも、自立した存在としての「自分」を少しずつ探し続けているのです。
・「自分らしさ」を模索していく中で、少しずつ「親と自分は違う」「私は私なんだ」と、境界線を引こうとします。
・「心の部屋」で、迷い悩んだり、自分の気持ちを整理する時間が必要になったりするその過程で、自然と親との距離をとるようになり=話さなくなるという行動に現れやすくなります。
2. 批判される不安と自己防衛
エルキンは、アメリカの発達心理学者で、思春期特有の「自意識の強さ」や「感情のゆれ」についての理論で知られています。
エルキンが特に注目されたのは、思春期の子どもが陥りやすい次の2つの心の特徴についての理論です。
1. 「想像上の観客」(Imaginary Audience)
まるで「みんなが自分を見ている」と感じるような感覚。
そのため、周囲の目を過剰に意識しやすく、恥ずかしさや不安が増すこと。
2. 「個人的寓話」(Personal Fable)
「この気持ち、親や大人にはわからない」と、そんな気持ちが強くなりやすい。
それは「個人的寓話」と呼ばれる心の特徴で、自分の感情や悩みは、誰にも理解されない特別なものだと感じる状態のこと。
・これらの感覚の結果として、孤独感を感じやすく大人に話すのをためらったり、反発する態度をとってしまうこともあるのです。
・親に話して「否定されたらどうしよう」「どうせ分かってもらえないだろう」と感じ、あえて話さないことで自分の心を守ろうとするのです。つまりそれは、傷つかないようにするための、子どもなりの自己防衛でもあります。
3. 脳の発達と感情の不安定さ
この時期、判断力や感情のコントロールを司る部分(脳の前頭前野)が未発達で、感情に関わる部分(扁桃体)が先に活発になります。
つまり、感情をうまくコントロールしたり、言葉で表現したりする力がまだ発達の途中なのです。つい感情が優先してしまい、うまく気持ちを言葉にできないことも多いのです。
そのため、自分の気持ちをうまく言葉にできなかったり、否定的な反応を受けたときに大きく傷ついたりもします。そもそも、それを避けるために「話さない」という選択をしていたのです。
親にできること5選 信頼と距離感のバランスがカギ
1. 無理に聞き出さない
「何があったの?」「なんで話さないの?」と問い詰められると、子どもはさらに心を閉ざしてしまいます。
まずは、「話さない自由」も尊重する姿勢が大切です。
2. 聞き手として“待つ”姿勢
子どもが話したくなるタイミングは、親が思う「今」ではないことがほとんど。
✅ 夕食の後
✅ 夜寝る前
✅ 車の中(横並びの環境)
こんな「何気ない時間」がチャンスになることがあります。
3. 安心できる雰囲気をつくる
学校から帰ってきた時など、子どもの揺らぐ感情や、その時々の態度が心配になることもあるでしょう。そんな時こそ、まずは「いつも通り」こちらが穏やかに過ごすことが大切です。子ども自身も、心の中のざわめく波を感じながら、それを静めようとしているのです。子どもの気持ちの波を感じるのは大切です。しかし、こちらも反応し一緒に揺れてしまうと、波が波にぶつかり大きな波になることも。親が穏やかな岸辺のようにそこにいれば、子どもの波は次第に落ち着きを取り戻していきます。どんなに荒れていても、「ここに帰れば受け止めてもらえる」という安心感。それが、揺れる思春期の子どもにとって何よりの支えになります。
4. 自分の話を少しだけする
「今日ちょっと仕事でこんなことがあってさ…」
「そういえば昔、私もこんな失敗して焦ったんだよ」など
親自身が感情を交えた話をすることで、子どもも「話すって悪くないな」と感じやすくなります。
そのような親の自己開示は、たとえ思春期の今は反応がなかったとしても…、子どもの信頼と未来の自己開示を促すきっかけにつながります。
5. 孤独にさせない。けれど、干渉しすぎない
「あなたの味方だよ」というメッセージは、言葉でなくても伝わります。
ごはんを作る、そばに座る、ちょっとした声をかける…そうした日常の積み重ねが、信頼関係を保つカギになります。
MIMAポイント!
食事のメニューを決める時に、「毎日」子どもの「なんでも好きなメニュー」を聞くことはできませんが💦1つ食材を決め、時々子どもに調理方法を聞いています。
【例えば】鶏肉を使おうと思うんだけど…照り焼きと唐揚げどっちがいいかな?など。
子どもにとっては選択ができること、意見を尊重され、受け止めてもらったという安心感、自分が決めたものを食べる喜びも感じることができます。ちょっぴり不機嫌な時も、この質問には必ず応えてくれるので、わたしの必殺技でもあります。
おわりに 「話さない」は親子関係の終わりではなく始まりです
思春期は、子どもが親から少しずつ距離を取りながら、自分自身の心と向き合って歩き始める大切な時期です。
「話さない」「ぶっきらぼう」――そんな態度の裏にも、親への信頼や甘えが、形を変えて隠れていることがあります。
いま、言葉がなくても大丈夫。
あなたの穏やかなまなざしや、変わらぬ姿勢は、必ず子どもの心の奥に届いています。
言葉にならないやり取りの中で、親子の絆は、静かに、でも確かに育まれているのです。
不安なときこそ、深呼吸をして、あたたかい気持ちでそっとそばにいること。
それが、思春期の子どもにとって何よりの安心になるはずです。
焦らなくていい。
話せる時は、きっとまた来ます。
その時まで、あなたらしく、寄り添っていってくださいね。